文は人なり

フリーライターの若林理央です。ダ・ヴィンチニュースや好書好日で執筆中。小説や映画について語るブログです。エッセイ→note.mu/wakario Twitter→https://twitter.com/momojaponaise

若林理央 ポートフォリオ【これまでの執筆記事】

都内在住のフリーライター 若林理央です。

 

ふだんの拠点は東京、

関西地方での案件があれば年に3回ほど実家のある大阪に滞在しています。

 

これまでの仕事

 

インタビュー記事

高橋留美子さん、よしながふみさん、押見修造さんなど漫画家さんのインタビュー記事を企画から取材交渉、インタビュー、執筆まで担当いたしました。

芸能人や企業取材の経験もあります。

エッセイ

場面緘黙症やチャイルド・フリー(あえて子どもを産まない選択をすること)など、社会で未だ注目されていない事象をエッセイとして書き、反響をいただいています。

 

(詳細は以下の執筆記事一覧をご参照ください)

 

 

現在、受け付けている案件

首都圏・関西地方でのインタビュー案件やエッセイ、書評(漫画評)の執筆ご依頼を受け付けています。

お問い合わせは下記までお願いいたします。

rio.wakabayashi429☆gmail.com

(☆を@に変えてお送りください)

 

これまでの執筆媒体

 

WEB媒体 週刊女性PRIME(主婦と生活社)/好書好日(朝日新聞社)/ダ・ヴィンチニュース(KADOKAWA)/Real sound book/70seeds/AM 他

紙媒体 週刊SPA!/月刊留学生/教育関係の書籍 他

(月刊留学生は「梶川理央」名義)

ブックライティングの経験もあります。 

 

経歴

神戸女学院大学文学部卒業。都内在住。

アイドル、モデル、企業での役員秘書などを経て、2013年からフリーライターとして執筆活動を開始した。

兼業で日本語教師をしている(2022年2月現在、休職中)。

noteブログでもエッセイや書評を掲載。

 

 執筆記事は以下ご参照ください。

 

執筆実績

ー書籍

・インタビュー

ポプラ社刊『ジブン未来図鑑』で片桐仁さんとトクマルシューゴさんの取材を担当しました。

 

週刊朝日

・書評

週刊朝日2020.3.20号に書評掲載。現在AERA.dotで読めます。

 

週刊女性PRIME主婦と生活社

・コラム


 

 ・対談記事

www.jprime.jp

 

fumufumu news 主婦と生活社

・コラム

fumufumunews.jp

好書好日|Good Life With Books朝日新聞社

・ライターページ

・コラム

・イベントレポート

book.asahi.com

・インタビュー記事(漫画家の方中心)

book.asahi.com

book.asahi.com

ダ・ヴィンチWebKADOKAWA

・書評 


 

  

 

 

 

 

他多数。ダ・ヴィンチニュースのサイトで「若林理央」で検索してみてください。

 

 ーReal Sound|リアルサウンド ブック 

・書評  

realsound.jp

 


ー「次の70年になにを残す?」 70seeds

・コラム 

・インタビュー記事

  サイボウズ代表取締役社長 青野慶久さんインタビュー

 

ーーーーー熊本県合志市・ROBOT取材(3回連載)ーーーーーーーー

 


 

 


 

 ー フラスコ飯店

・映画評

 

ー理系就活メディア LabBase

・インタビュー記事

  

ー未来をともに育むメディア UMU

・インタビュー記事


ーおもしろ系メディア CRAZY STUDY

・座談会

 

お気軽にお問合せください。

rio.wakabayashi429@gmail.com

 

本棚の悲喜こもごも

図書館の本棚が好きだ。

 

迷い込んでいるうちに、出会うはずだったのに運命のいたずらで巡り合えなかった本、読みたいと思っているうちに絶版になった本、今は書店に並べられることのない作家の本が必ず見つかる。

 

図書館の本棚と本棚にはさまれながら、生まれ、一生を終えることができたら。

 

そんな空想にふけり、うっとりと本棚を見回しているうちに時間は過ぎていく。

 

「もう数時間経つよ」

 

夫にそう言われてようやく時計を見る。

図書館の本棚に囲まれていると、時の感覚すらなくなってしまう。

 

家に戻り、図書館で借りた本を本棚に並べると、何かを成し遂げたような、英雄のような気分になる。

 

周囲には書店や古書店で買った小説や漫画が、じっと図書館で借りた本をにらむ。

特にまだ私が読み切れていない本は、「お金を出して買われたわけでもないのに、返却期限があるから自分たちより先に読まれるんやろ」と図書館で借りられた本を凄んでいる。

 

ちょっと待ってほしい。

 

私はそんな本たちをなだめる。

 

あなたたちは、長いあいだ私といっしょにいられる。

書店の本棚にある本は、時と共に移りゆく。

新刊や話題作が届くと、古い本は次々に書店の本棚から姿を消すことを知らなかった10代のころから、いっしょにすごしてきた本もある。

 

私の悩み、考えていること、人生の変化を、ずっと見てきた、またはこれからも見ていられるのはあなたたちだ。

 

図書館の本棚にあった本は、すでに絶版になっていたり、書店ではもう置いていなかったりするものが多い。

だから、もう少しやさしく迎え入れてほしい。

 

私に買われた本たちは、一変して同情するように図書館で借りられた本たちを見た。

そうか、きみたちはしょせん短期間しかここにいられない運命なのだ。

ほんとうに本棚の主人に愛されているのは自分たちなのだ。

そんなあわれみの目で、借りられた本を見る。

マウントをとるのすらはばかられるといった様子だった。

 

一カ月後。

本棚に新入りが入ってきた。

 

買われた本たちは、先輩風を吹かせ、

「ここの本棚の主人は、本をやたら買っては、読み終える前に次の本を買う」

「まだ読み終えてもいないのに自分たちを眺めてうっとりとする」

積読するタイプだ。覚悟しておけよ」

と私の本棚に並べられる際の心がまえを新入りに伝える。

 

ある本が、「おい、みんな待て」とほかの本たちにストップをかける。

 

「あの新入り、前に借りられてきた本としてここに並んで、一週間で去っていった奴と同じじゃないか…?」

 

新入りが照れくさそうにする。

主人である私はいつものように本棚をうっとりと見つめる。

 

図書館の本棚で気に入った本。

その中には、書店で取り寄せられたり、インターネットでまだ買えたりするものがあるのだ。

 

本棚の中の長老の本が、「私たちは過去から何も学ばず、主人に騙されていたのだ」と重々しく本棚の奥から存在感を示す。

 

「うちの主人は、気に入った本を借りたあとに調べ、まだ買えるなら買う。そんな人なのだ」

 

私は本棚を眺めたあと、にんまりとした。

 

今週のお題「本棚の中身」

【告知】明日(5月29日)開催の文学フリマ東京に出店します

文学フリマ東京に出店します。

出店は2回目ですがひとりで出店するのは初めてです。

ひやかし大歓迎ですのでぜひ遊びに来てください!

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日時:5月29日(日)12時~17時【入場無料!】

場所:東京流通センター第一展示場(東京モノレール流通センター駅から徒歩1分)

サークル名:「文は人なり」(トー44)

来場者入場口から入って左に真っすぐ進むと右手に見えてきます。

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持って行く本はこちら。当日はブースでサンプルを試し読みできるようにします。

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お品書き。『私たちが「産まない」を選んだのは』は文学フリマ限定価格で安くしています。
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青い線に沿って進んでいただければたどりつきます。

サンプル
 ・私たちが「産まない」を選んだのは
 ・文章でめし食って9年
 ・絶望の恋愛小説

なお、来られない方は通販もあるのでよろしければご覧ください。

bunwahitonari.booth.pm

 

 

【告知】5月29日の文学フリマ東京から新刊(ZINE、情報同人誌など)を3冊発売します

 

2022年5月29日、文学フリマ東京で新刊を3冊出します。

 

文学フリマ東京にいらっしゃる方は今日(5月1日)から予約開始していますので私のTwitterのDMもしくはbunwahitonari429@gmail.comまで、ご希望の本のタイトルを明記のうえ、ご連絡をください。

 

通販(匿名配送)の予約受付も始めました。

こちらの発送は6月1日からです。

通販ご希望の方は以下のショップページから予約注文していただけると嬉しいです!

 

 

文学フリマ東京でのご購入希望の方は、ご予約分取り置きしますので、キャンセルの場合は5月20日までにご連絡ください。

(急病などで行くのが難しくなった場合は前日でも結構ですのでご連絡ください)

 

こちらは概要の解説ページですので、購入するかどうか検討される際の参考にしていただけたらと思います。

 

情報同人誌『文章でめし食って9年』

A5サイズ、26ページ。

カバーイラスト:杉本早さん

価格:500円

概要:

大好きだった書くことが仕事に。文筆業で生計を立てるフリーライターが今、思うこと。ライターになるノウハウやライターになった経緯などを掲載した情報同人誌です。

本書の「はじめに」全文を掲載したサンプルページを以下に掲載しています。

 

note.com

 

ZINE『私たちが「産まない」を選んだのは』

A5サイズ、40ページ。

カバーデザイン:イトウミドリさん。

価格:即売会(文学フリマなど)限定価格は500円、その他(通販など)600円。

 

 

概要:

「私は自分の意志で子どもを産まない」

いわゆるチャイルド・フリーが抱える周囲からの圧力や、個人で産む、産まないを選択するということを女性たちへのインタビューや著者のエッセイ、書評からあぶりだします。

本書の「はじめに」全文を掲載したサンプルページを以下に掲載しています。

 

note.com

 

 

映画評・小説同人誌『絶望の恋愛小説』

文庫サイズ、26ページ。

価格:300円。

 

 

概要:

絶望の結末を迎える、味わいの異なるオリジナル短編小説を3篇と、絶望の恋愛を描いた『春の雪』の映画評を収録。

その中の小説1編の序盤を以下にサンプルとして掲載しています。

 

note.com

 

いろいろな方に興味を持っていただけたら幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

若林理央

Twitter @momojaponaise

 

傷ついたこころに寄り添う『絶望名言』

 後味の悪い作品が好きだ。

 小説、漫画、映画、ドラマ…ちょっとしたバッドエンドでは物足りないほど、私は創作物に後味の悪さを求めている。

「なぜ?」と聞かれたら「カタルシスを得られるから」と答えていたが、なんとなく違う気もしていた。

 文学紹介者である頭木弘樹さんの本を読んだとき、その理由がわかった。

 

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NHKラジオ深夜便 絶望明言』(頭木弘樹NHKラジオ深夜便制作班著/飛鳥新社)は、その名のとおりNHKラジオ深夜便」のコーナーを完全収録した書籍である。

 頭木弘樹さんとアナウンサーの川野一宇さんの対話によって進むこの番組は、国内外問わず数々の作家が残した「絶望名言」を、背景とともに紹介する番組で、リスナーの反響があり2018年12月に書籍化、翌年の11月に2巻が発売された。

 

 内容のまえに、まずは頭木弘樹さんについて触れたい。

 二十歳のころ、難病を患い十三年間ベッドでの生活を余儀なくされた頭木さんは、入院した当時大学生だった。

 終わりの見えない闘病生活で頭木さんの支えとなったのが、カフカをはじめとする数々の文豪の文学作品や残された言葉だった。

 努力しようにも努力できない状況に追い込まれたとき、芸術家たちが絶望のなかつづった文章は人を癒す。

 

 たとえば『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)に「人間てやつは他人を苦労者と認めることをあまり喜ばないものだからね」という一節があり、頭木さんはこう解説する。

 

苦労すればするほど、他の人の苦労を認めず、お前は甘い、大したことないというふうに否定するようになってしまうという。これは辛い経験をしたことの負の面、マイナスの面だと思うんですね。

 

 この言葉は、すとんといまのわたしの心に落ちた。

 ちょうど自分自身につらいことがあり、知人に打ち明けると「そんなことは大したことない。自分なんてあなたよりもっとひどい目に遭ってるんだから」と言われたときだったからだ。

 

 ゲーテについての章も自分の今の状況に置き換えて考えられるものだった。

 裕福な家庭に生まれ育ったゲーテは、20代で『若きウェルテルの悩み』をはじめとする自著が高い評価を受け、生涯にわたって数々の恋愛を楽しんだ。

 政治家としても成功し貴族に列せられ、宰相までのぼりつめている。あまりにも幸福に見える人生なので、映画などのエンターテイメント作品で題材にされることは少ないという。

 だが、わたしたちがゲーテの生涯を幸福だと思うのは、それが他人の人生を「あらすじ」としてしか見ていないからだと頭木さんは語る。

 

 ゲーテの人生の細部を見ると、幼いころに弟妹四人が死に、唯一成人した妹を可愛がっていたが、その妹も26歳で世を去った。自分より若い家族との別れは老年期にも訪れ、息子を亡くしている。

 ゲーテ自身は、自分の生涯を幸福だと思っていたのだろうか。

「あらすじ」だけでおしはかるとゲーテは成功者そのものだ。だが、多くの人はその人生の細部にまで目を向けない。

 頭木さんは丁寧にゲーテの人生を見つめることで、その細部に宿る絶望に気づく。これは本作の解説がなければ気づかなかったかもしれない。

 

 人生のあらすじだけを見て「幸せ」と他者がカテゴライズすることは、当事者の傷を深めることになりかねない。

 日本の文豪を例に挙げるなら、川端康成が思い浮かぶ。

 川端は日本人初のノーベル文学賞受賞という栄誉を手にした。しかし、老後、謎の自死を遂げる。

 遺書がなかったため、自ら命を断った理由は諸説ある。

 ノーベル賞受賞後、今までの小説を超える傑作が書けなかったから、可愛がっていたかなり年下の三島由紀夫が先に死んだから…

 後世を生きるわたしたちが理由を想像しても、断定には至らない。

 世界最高の栄誉を得たのになぜ。

 それを問う無意味さをもっとも感じていたのは、ノーベル文学賞受賞後の川端自身だったのかもしれない。

 

 また、若いころから絶望とともに生きた芸術家もいる。

 音楽家ベートーヴェンは難聴をわずらっていた。これは音楽を生業にする人にとって、とてつもない苦しみである。それでも耐え続けたが、名曲「第九」発表後は、時代の需要と合わず評価がどんどん落ちていった。

 ベートーヴェンは自分自身を不幸だと感じていた。

 だが彼は、どうすることもできない障害に苦しみながらも、できることを模索した自分の姿になぐさめを見出してほしいという言葉を残す。

 頭木さんはベートーヴェンの章で「価値のあるものを残すから、生きる価値があるというのではない」とつづる。

 

 川端が死ぬ前にベートーヴェンの言葉を見聞きしたことがあったのかはわからない。

 だが、生きる意味を求めれば求めるほど苦しみが大きくなり、閉塞感をいだくのは、だれにでもありえることだ。

 

 そして、生きる意味、死ぬ意味…もっと身近な例でいうと悩む意味など、すべての事象に意味を見出そうとすることが果たして必要なのか、頭木さんの文章を読んだあと、それぞれが自らに問うことになるだろう。

 

 最後にゴッホの章を例に挙げたい。生前は絵がほとんど売れず、弟テオに養ってもらい貧困にあえぎながら死んだゴッホ。彼はテオに充てた手紙で「われわれを閉じ込めるものが何か」をつづる。

 

悩みというのは普通、かなり正体不明なんじゃないかと思うんですよ。(中略)はっきりした悩みだと思っていても、その周りには言葉にならないものが取り巻いているんじゃないのかなと。

 

絶望的な名言を通して頭木さんが伝える言葉は、普遍性があるものだ。だからこそわたしたち読者のこころの奥深い部分に残る。

 

 こころが疲れたとき、希望を持たせる言葉で背中を押されると、より痛みが深くなることがある。励ました人に悪気がなくてもそうだ。

 

 それなのになぜか、苦しみの渦中で絶望的な言葉に救いを見出すことがある。

 わたしが後味の悪い作品を好む理由も、きっとここにある。

 絶望した人の放つ言葉は実感が伴うからこそ、わたしたちを包み込み、寄り添ってくれるのではないだろうか。

【天竺鼠】何かに気づかされる笑い

特別お題「わたしの推し

 

エンターテイメントに共感性が求められる時代になった。

 

小説や漫画を読んだ読者、映画やドラマ・アニメを見た視聴者がSNSで「登場人物に共感できなかった」と投稿する。

それを目にするたび、「共感しなくても味のある作品」は、わかりづらいのかと思い、わかりやすいものばかりが賛美される風潮に疑問を感じる。

 

天竺鼠というお笑いコンビが生み出す笑いは、共感性を呼ぶものではない。

「何か」に気づかされるものだ。

 

ネタを作るボケ担当の川原さんが意識してそうしているのか、無意識のうちにそうなっているのかはわからないが、天竺鼠の漫才やコントを見て笑った後、私たちは「なぜ自分が笑っているのだろう?」とふと我に返る。

 

そして天竺鼠の笑いは、舞台が終わった後も私たちの心をとらえ続ける。

数日経ち、自分の中からこらえきれずに沸き上がった笑いについて、考えることができるのだ。

 

2021年末から2022年はじめにかけて天竺鼠全国ツアー「やっぱツアーっしょ!!」が開催された。

全3回、開催地は紀伊国屋ホール(新宿)、ルミネtheよしもと(新宿)、よみうりホール(有楽町)だ。

 

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昨年、天竺鼠は恐らく世界初の無観客無配信ライブを開催した。

「次はどうくるのか」

ネタや構成を担当するボケ担当の川原さんが、ラジオで「もう有観客無開催くらいしか満足できない」と言うのを聞きながら、不安と期待でいっぱいになっていた。

 

有観客無開催はファンミーティングと何の違いもないと思うのだが、「天竺鼠のファンミーティング、めっちゃ面白そう。川原さんがしたいならしてほしい」という気持ちになった。

 

この「川原さんがしたいなら」というのがポイントである。

 

「川原さんのしたいこと」=「私たちの楽しいこと」だと置き換えられるようになってしまっている。

 

だが、川原さんは有観客無開催ライブではなく、ぜんぶ東京の全国ツアー催行に踏み切った。

 

「そうきたか」

 

驚きながらも、多くのファンが納得しただろう。

 

私は先行発売で全3回のチケットをとり、「寒いし仕事忙しいししんどいけど、単独ライブ全部終わるまでは生き延びる」と気持ちを奮いたたせた。

 

走り切ったとき、心に宿ったのは、川原さんの「圧倒的センター」感とその川原さんの個性をより強める瀬下さんの「内助の功」とも言うべき能力である。

 

川原さんは決して自らのプライベートを明かさない。必要なときは虚構をまじえ話す。

その神秘性と、自分の仕事以外の顔も時折のぞかせる瀬下さんの対比も天竺鼠の魅力だが、今回のライブでは瀬下さんの娘さんが登場するVTRにそれが現れていたように思った。

 

そして、コントのネタ。

 

天竺鼠のコントは、シュールに分類される。

決してわかりやすいものではない。好き嫌いも分かれる。

だが、一度はまった人にとっては、「自分がなぜ面白いと感じるのか」「このネタのどの部分に、何を感じたのか」考察し始めると、止まらなくなる。

全3回見たのに、オンライン配信(※3回目のみ)まで買ってしまった。

また見たいからだ。

胸が痛くなるほど、笑いたいからだ。

 

「やさしい笑い」や「共感性」という言葉は、時折、漫才師やコント師を縛る。

私は、考察しがいがあり、時に痛みすら感じる笑いに満たされたい。

 

次は天竺鼠の漫才を寄席で見る。

出番前に流れる天竺鼠の出囃子をBGMにしていると、再び胸が高鳴り始めた。

 

 

1月1日のトナカイ

「いやあこの年末年始というものがね、いやでたまらない」

 

白いひげを撫でながら、サンタは今年もぼやく。

飲み始めてすぐなのに顔が真っ赤だ。どうせ昨夜ひとりで深酔いしたんだろう。

付き合わされるこっちの身にもなってほしいと思いながら、トナカイはカラになったサンタのコップにビールをついだ。

 

「どうせまた来年もこき使われたあげく忘れられるんでしょ。たまんねえよな。おれはこの年末年始が嫌いな人たちにだけプレゼントをしたい」

「まあまあ、そんなこと言わずに」

こんなこと外で誰かが聞いたら大炎上だぞ、と心の中で毒づく。昔とは違う。どこから情報がもれるかわからないのだ。

「気がきかねえな。お前の親父はもっと話を合わせてくれたぞ」

「それは申し訳ございません。ご期待にそえず」

「まあお前んちも大変だよな。代々、冬は休めないし」

 

だが、帰るとあたたかい家とやさしい家族が待っている。

そう言ってやりたい気持ちをおさえた。

孤独なサンタは、酒に溺れて部下に愚痴ることしかできないのだ。

昔、父親が1月1日の夜に帰ってきたとき、子供だったトナカイはどうしてもっとサンタに寄り添ってあげられないのかと思っていた。

どうせ年末年始だけのことだ。時が過ぎれば、ごきげんなサンタに戻る。

だけど跡を継いだ自分が、サンタに対して父と同じようなことを感じていると気づいたとき、トナカイは運命の皮肉さを痛感した。

父だけではない。祖父も曽祖父も、ずっと1月1日はこんな気持ちだったんだろう。

 

歳をとらず、永遠に子供たちに夢を与え続けなければならないサンタ。

哀れな存在だが、代々そのサンタの部下になることを宿命づけられている自分たちトナカイ一族も、同じように世間から見られているのだろう。

 

あわてんぼうのサンタクロース…」

 

ろれつもまわらなくなっているのに、サンタが歌い始めた。

すぐに大きないびきをたてて、サンタは眠った。

 

ベッドに運ばなければ。

よいしょとトナカイはサンタを背に乗せる。

ベッドの横には、クリスマスツリーがある。

床に、一年に一回だけ使う赤い服や帽子が乱れていた。

小さなトナカイのぬいぐるみもその中にあり、思わず目をそらす。

 

クリスマスが盛り上がり過ぎるからいけないのだとトナカイは思った。

12月26日になれば、ほとんどの人はサンタを忘れる。次の年まで、ずっと。

ベッドでぐうぐう眠るサンタの目がさめないように祈りながら、トナカイは出口に向かった。

 

「あけましておめでとう、ボス」

 

ドアを開ける寸前に、口をついて出た自分の言葉に驚いて、苦笑いした。

町の小さな本屋の可能性 『13坪の本屋の奇跡』木村元彦

 

本屋が町にあふれたら。

とりとめもなく、そんな想像をすることがある。

「好きなジャンルの本は、あの本屋に行けば、最適なものが見つかる」

「今自分に必要な本がわからなければ、本屋さんに相談しよう。ぴったりのものを見つけてくれる」

町の人たちはみんなそう認識し、本屋のレジの前で列を作る。町の子どもたちも、いっしょに列に並んでいる。

「これな、あの本屋さんが選んでくれた本やねん」

あとで友だちに会ったら、子どもたちは自慢するのだ。

 

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 「生活空間である町のインフラとしての本屋」

『13坪の本屋の奇跡』で、著者木村元彦は私が憧れる本屋のことを、そう表現していた。

それが現在の日本で実現しないのは、なぜなのか。

ランク配本、見計らい配本という独自の配本システムや無料配送するインターネット書店増税…若者の本離れ以前に、問題が山積みなのだ。

総務省によると、1991年には全国で7万6915店舗あった本屋は、2014年、3万7817店舗になった。半減している。著者も、『13坪の本屋の奇跡』で「図書カードリーダーのある店が10年前の4分の一」と記していた。

 

まず、配本システムとは何なのか、確認したい。

 

 ランク配本の「ランク」とは、本屋の「ランク」のことである。

 

木村元彦『13坪の本屋の奇跡』では、大阪にある13坪の本屋、隆祥館書店にスポットをあてる。現在の代表取締役、二村知子さんが理不尽なランク配本に直面したのは、1999年のことだった。

当時、日本で大ブームを巻き起こした「動物占い」シリーズ発売時だ。

 

大規模書店では、店のいちばん目立つ場所に「動物占い」シリーズが山積みされていた。しかし、13坪の本屋「隆祥館書店」には、数冊しか入ってこなかった。

お客さんたちは、当然「動物占い」シリーズがないことに驚く。

隆祥館書店の代表である二村知子さんは、取次に連絡を取り、異議をとなえた。

 

出版社→取次(トーハンなど)→本屋というルートで、本は送られてくる。

取次は、本屋をランクで分ける。大規模書店には話題になっている本や新刊を多数入れる。しかし、小規模書店にはわずかしか入ってこない。

 

二村さんは取次に対し、欲しい本をお客さんに買ってもらうため、「もっと動物占いの本を入れてください」と説得した。しかし、取次は、「ランク配本なので、無理です」と応じなかった。

二村さんは、取次の社員がひんぱんに隆祥館書店に顔を出し、注文を聞いてくれていることや、納品のために必死で段取りを組んでいることを知っている。

問題視するべきなのは、取次の社員ではなく、長年受け継がれていた配本システムの構造なのだと、二村さんは実感した。

それは、前代表の二村さんの父が、取次業界に対し声を上げ続けていたことでもあった。

 

二村さんは努力の末、出版社の販売担当者にコンタクトをとり、この件を伝えた。

すると返ってきたのは、「弊社の本が、求めている書店さんに届いていないなんて」という謝罪の言葉だった。

 「動かないと何も始まらない」

二村さんの、その後の道しるべともなる出来事だった。

 

 

『13坪の本屋の奇跡』にも書かれているように、町の本屋が苦境に追い込まれている配本システムはもう一つある。見計らい配本だ。

 

段ボールを開けると、頼んでもいない本が入っている。根拠なく特定の国を否定するヘイト本、何年も前に出て誰もが興味を失っている本…売りたくない本、売れない本であっても、書店はすぐに入金しなければならない。

 

2005年、ヘイト本ブームが巻き起こったとき、私は大阪府堺市の書店でアルバイトをする大学生だった。いくつかの本屋でヘイト本特集がされているのを見た。「この書店の経営者は、こういう思想の持主なのだな」と思った。

書店でアルバイトしていても、見計らい配本という言葉を聞いたことがなく、そんな誤解をしていた。経営のために、売りたくない本を置いている本屋もあることを、『13坪の本屋の奇跡』を読んで初めて知った。

 

この書評を書く前に、わたしは実際に隆祥館書店を訪れた。

 二村さんは毎週届くというトーハン(取次店)週報を開き、説明してくれた。週報には本の概要が掲載されていた。いくつかの本は赤いペンで囲ってある。隆祥館書店が注文して送ってもらっている本だと言う。

 

どうやって、隆祥館書店は置く本を選べるようになったのか詳細を知りたい。

そう言う私に対し、二村さんは口頭でわかりやすく説明してくれた。

「根拠のなく特定の国を批判するヘイト本を置きたくないと、取次の方の前で声をあげました。その後、隆祥館書店にはヘイト本が届かなくなりましたが、他の同じような規模の書店さんの話を聞くと、未だに見計らい配本でヘイト本が届いているようですね。

声をあげるかあげないか、それも重要なのですが、小規模書店は経営が常に苦しく、見計らい配本で届いた本を書店に置かざるをえないのです」

経営のための、苦渋の選択だ。

 

隆祥館書店も、存続のため、新たな試みをする必要があった。

二村さんは「著者を囲む会」を始めた。彼女がイベント開催にあたって心がけていたことが、『13坪の本屋の奇跡』で、木村元彦によって記されている。

(二村は)単なる客寄せのプロモーションイベントにしないことを心掛けた。(中略)薦められると思ったものはどんなに無名の作家のものでも根気良く紹介したし、逆にリクエストがあれば、(中略)面識が無くても直接手紙を書いて実現させた。

結果、「著者を囲む会」は、著者からも来場者からも好評を得た。現在、その回数は200回を超えている。

 

実際に二村さんにこのイベントが収益につながっているのか私は聞いてみた。二村さんは、来場者が30人集まれば、1人1冊、必ずその著者の本を買ってもらうことにしているそうだ。そうすれば、一晩でその本は30冊売れる。

 

それでも、経営に余裕があるとは言い難い。ふだんは本屋でお客さんにぴったりの本を薦め、レジを打ち、書店経営者としての役目を十分に果たしている二村さん。しかも隆祥館書店の定休日は少ない。

「著者を囲む会」で進行役を務めることの多い二村さんは、寝る間を削り、登壇する著者の本を消化しきるまで再読しているそうだ。

 

忙殺されていても、二村さんには知りたいことがあった。

「他の国の配本システムはどうなっているのか」

なんとか時間を捻出し、ヨーロッパへ向かった。

 

二村さんは、「ドイツの本屋はとても良いんですよ」と私に話してくれた。

ドイツでは、発売前の本のプルーフ(見本)を町の本屋の経営者たちが読み、自分の意志で置きたい本を選ぶそうだ。

ドイツの本屋は、すでに経営者が自ら本を選んでいるのである。

二村さんは、「日本もそうなれば良いのに」と言った。今の日本の本屋は、個性を持ちたくても、持てない。

どの本屋に行っても同じ本が並べられ、「それなら配送料も無料だし、インターネット書店で買おう」と、お客さんたちは本屋から離れていく。

 

ヨーロッパは日本と異なる動きを見せ続け、町の本屋の存続を国が支援している。

ドイツだけではない。

2014年、フランスで反アマゾン法が可決されたのも画期的だった。

 

ハフポストによると、反アマゾン法とは、アマゾンなどのオンライン書店が値引きした商品を、無料配送することを禁じる法律である。

フランスの町には、何百年も前からの国の文化が、今も残っている。建物の高さや色に制限があり、建築物の外観を重視する。文化を守るための努力を惜しまない。

町の本屋を守るために、国が動く姿からも、フランスらしさが表れている。

 

日本はどうしてドイツやフランスのようにならないのだろうか。

 本棚に並べられた中から、一冊を選ぶ。その楽しさを、配本システムやインターネット無料配送のせいで、利用者が味わえない。

自分にぴったりの本を勧めてくれる隆祥館書店のような本屋さんがあることも、ほとんどの人は知らない。

 

 

『13坪の本屋の奇跡』の中で、二村さんが指針にしている言葉が出てきた。

二村さんは、シンクロナイズドスイミングの元日本代表だった。当時のコーチは、メディアでも有名な井村雅代さんだ。

井村さんは、二村さんに「敵は己の妥協にあり」という言葉を教えた。

 

配本システム、増税による出版不況、店舗の規模による返金の時期の違い…小規模書店を追いつめていく様々な背景が本書では描かれているが、二村さんは、井村さんから学んだことに支えられ続けた。

2013年4月には、「井村雅代さんを囲む会」も実現した。『13坪の本屋の奇跡』に実際にイベントで行われた対話が収録されていて、井村さんの熱い想いを知ることができる。

『13坪の本屋の奇跡』で、個人的にいちばん好きな章だ。井村さんの話は、見事に二村さんの「今」に繋がっていると感じた。

 

隆祥館書店で二村さんから話を聞いた後、私は本をおすすめしてほしいとお願いした。

「今の目標や、こうなってほしいと思っていることはありますか?」

二村さんの質問に対し、私は答えた。

 「努力がださいと言う人もいるけど、私は努力する人が報われる世の中になってほしい。私は努力して、自分の夢を叶えたい」

私の言葉を聞いた二村さんは三つの書籍をおすすめしてくれた。

 

その中に、坂本敏夫さんが執筆した『典獄と934人のメロス』があった。

『13坪の本屋の奇跡』で、「初版6000部のこの小説」を二村さんが「ひとりで500部売り切った」と書かれていた。

内容は下記のとおりである。

関東大震災の際、囚人が逃走して罪を犯しているというフェイクニュースが出回った。実際は、全員が戻っていたという事実を、綿密な取材を重ね、「人間の「信」に焦点をあてた」大作である。(「」は『13坪の本屋の奇跡』より引用)

『13坪の本屋の奇跡』で知り、ライターの友人にも勧められていた本だった。探し回っていたが、隆祥館書店で初めて見つけた。二村さんは「外国人に日本語を教えている、若林さん(わたし)にとっても、おすすめの本ですよ」と紹介してくれた。

 

二村さんは緑が好きだと言う。隆祥館書店のブックカバーも、薄い緑だった。

二村さんは丁寧に折り目をつけ、私が買った3冊の本にブックカバーをつけてくれた。

本を愛しく想い、買ってくれるお客さんを大切にしていることがわかるブックカバーのつけ方だった。

 

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目の前にいる人は、間違いなく『13坪の本屋の奇跡』で、奇跡を作った人なのだ。レジの前で、ふつふつと実感がわいてきた。

 

いつか、町の本屋に列をなす、子どもたちの姿を見たい。丁寧にブックカバーをつけてもらい、笑顔で本屋から駆け出す子どもたちの姿。

『13坪の本屋の奇跡』

この本と隆祥館書店を、次はだれに薦めようかと思いながら、私は隆祥館書店のある谷町六丁目を後にした。