「いやあこの年末年始というものがね、いやでたまらない」
白いひげを撫でながら、サンタは今年もぼやく。
飲み始めてすぐなのに顔が真っ赤だ。どうせ昨夜ひとりで深酔いしたんだろう。
付き合わされるこっちの身にもなってほしいと思いながら、トナカイはカラになったサンタのコップにビールをついだ。
「どうせまた来年もこき使われたあげく忘れられるんでしょ。たまんねえよな。おれはこの年末年始が嫌いな人たちにだけプレゼントをしたい」
「まあまあ、そんなこと言わずに」
こんなこと外で誰かが聞いたら大炎上だぞ、と心の中で毒づく。昔とは違う。どこから情報がもれるかわからないのだ。
「気がきかねえな。お前の親父はもっと話を合わせてくれたぞ」
「それは申し訳ございません。ご期待にそえず」
「まあお前んちも大変だよな。代々、冬は休めないし」
だが、帰るとあたたかい家とやさしい家族が待っている。
そう言ってやりたい気持ちをおさえた。
孤独なサンタは、酒に溺れて部下に愚痴ることしかできないのだ。
昔、父親が1月1日の夜に帰ってきたとき、子供だったトナカイはどうしてもっとサンタに寄り添ってあげられないのかと思っていた。
どうせ年末年始だけのことだ。時が過ぎれば、ごきげんなサンタに戻る。
だけど跡を継いだ自分が、サンタに対して父と同じようなことを感じていると気づいたとき、トナカイは運命の皮肉さを痛感した。
父だけではない。祖父も曽祖父も、ずっと1月1日はこんな気持ちだったんだろう。
歳をとらず、永遠に子供たちに夢を与え続けなければならないサンタ。
哀れな存在だが、代々そのサンタの部下になることを宿命づけられている自分たちトナカイ一族も、同じように世間から見られているのだろう。
ろれつもまわらなくなっているのに、サンタが歌い始めた。
すぐに大きないびきをたてて、サンタは眠った。
ベッドに運ばなければ。
よいしょとトナカイはサンタを背に乗せる。
ベッドの横には、クリスマスツリーがある。
床に、一年に一回だけ使う赤い服や帽子が乱れていた。
小さなトナカイのぬいぐるみもその中にあり、思わず目をそらす。
クリスマスが盛り上がり過ぎるからいけないのだとトナカイは思った。
12月26日になれば、ほとんどの人はサンタを忘れる。次の年まで、ずっと。
ベッドでぐうぐう眠るサンタの目がさめないように祈りながら、トナカイは出口に向かった。
「あけましておめでとう、ボス」
ドアを開ける寸前に、口をついて出た自分の言葉に驚いて、苦笑いした。