図書館の本棚が好きだ。
迷い込んでいるうちに、出会うはずだったのに運命のいたずらで巡り合えなかった本、読みたいと思っているうちに絶版になった本、今は書店に並べられることのない作家の本が必ず見つかる。
図書館の本棚と本棚にはさまれながら、生まれ、一生を終えることができたら。
そんな空想にふけり、うっとりと本棚を見回しているうちに時間は過ぎていく。
「もう数時間経つよ」
夫にそう言われてようやく時計を見る。
図書館の本棚に囲まれていると、時の感覚すらなくなってしまう。
家に戻り、図書館で借りた本を本棚に並べると、何かを成し遂げたような、英雄のような気分になる。
周囲には書店や古書店で買った小説や漫画が、じっと図書館で借りた本をにらむ。
特にまだ私が読み切れていない本は、「お金を出して買われたわけでもないのに、返却期限があるから自分たちより先に読まれるんやろ」と図書館で借りられた本を凄んでいる。
ちょっと待ってほしい。
私はそんな本たちをなだめる。
あなたたちは、長いあいだ私といっしょにいられる。
書店の本棚にある本は、時と共に移りゆく。
新刊や話題作が届くと、古い本は次々に書店の本棚から姿を消すことを知らなかった10代のころから、いっしょにすごしてきた本もある。
私の悩み、考えていること、人生の変化を、ずっと見てきた、またはこれからも見ていられるのはあなたたちだ。
図書館の本棚にあった本は、すでに絶版になっていたり、書店ではもう置いていなかったりするものが多い。
だから、もう少しやさしく迎え入れてほしい。
私に買われた本たちは、一変して同情するように図書館で借りられた本たちを見た。
そうか、きみたちはしょせん短期間しかここにいられない運命なのだ。
ほんとうに本棚の主人に愛されているのは自分たちなのだ。
そんなあわれみの目で、借りられた本を見る。
マウントをとるのすらはばかられるといった様子だった。
一カ月後。
本棚に新入りが入ってきた。
買われた本たちは、先輩風を吹かせ、
「ここの本棚の主人は、本をやたら買っては、読み終える前に次の本を買う」
「まだ読み終えてもいないのに自分たちを眺めてうっとりとする」
「積読するタイプだ。覚悟しておけよ」
と私の本棚に並べられる際の心がまえを新入りに伝える。
ある本が、「おい、みんな待て」とほかの本たちにストップをかける。
「あの新入り、前に借りられてきた本としてここに並んで、一週間で去っていった奴と同じじゃないか…?」
新入りが照れくさそうにする。
主人である私はいつものように本棚をうっとりと見つめる。
図書館の本棚で気に入った本。
その中には、書店で取り寄せられたり、インターネットでまだ買えたりするものがあるのだ。
本棚の中の長老の本が、「私たちは過去から何も学ばず、主人に騙されていたのだ」と重々しく本棚の奥から存在感を示す。
「うちの主人は、気に入った本を借りたあとに調べ、まだ買えるなら買う。そんな人なのだ」
私は本棚を眺めたあと、にんまりとした。
今週のお題「本棚の中身」