noteに書いた記事の小説バージョンです。
視点を私から朝ごはんに切り替えました。
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朝食いは5時台に起きる。
台所の食料たちの目覚めのときである。
起きるといつも洗面台、ベランダというコースをたどってから台所に来ることを食料たちは知っている。
朝食いは、まずガラスのコップを取り出してから個包装の青汁が入った箱を取り出す。
青汁は、彼らの世界では「トップバッター」と呼ばれている。
朝食いが起きて、最初に喉に通る青汁自身も自らがトップバッターと呼ばれることを誇りに思っているようだ。
ただトップバッターはミネラルウォーターを入れないと完成しない弱点があり、混ぜる回数が足りず、ときどき粉がグラスに貼りついたまま残ることがある。
だいたいは朝食いがまたミネラルウォーターを流し込んでその粉を再び青汁にして、トップバッターの役目をまっとうできるのだが、いくつかの粉が残り水で流されることもある。
無事、朝食いに飲まれたトップバッターは、残念な気持ちで無駄になってしまった仲間たちを見送る。
次に朝食いは、「圧倒的センター」を取り出す。
彼女はトップバッターたちとは違い、周囲に嫌われている。なぜかというと、いつも朝食いの朝食の中心であることを自慢して、自ら「圧倒的センター」と名乗っているからだ。
名前が主食ってだけのくせに。
昼や夜になれば、白米に変わる、朝だけの存在のくせに。
「欧米では白米より私たちのほうがよく食べられているのよ」という言葉を残して、圧倒的センターはバルミューダという特別なトースターで美しい焦げ目がつくまで焼かれる。
うらやましいなあ、とまだ冷蔵庫にいるつるつるのゆで卵は思っていた。
純粋なゆで卵は、朝食いがどんなに食欲がないときも絶対に食べてもらえる圧倒的センターがうらやましかった。
ゆで卵は「忘れられた子」というニックネームがついている。
よく朝食いが冷蔵庫にあるのも忘れ食べないからだ。
だが今日は違った。
「忘れられた子」は「忘れない子」になり、冷蔵庫から取り出される。
「いろどり」というニックネームを持つ茹で野菜と一緒に。
いろどりは、忘れられた子をとてもいとしく思い、共感してもいた。
自分は「いろどり」という素敵なニックネームをつけてもらってはいるけれど、実際は冷蔵庫にあることを忘れられ、朝は食卓まで行けないことがほとんどだからだ。
その場合は昼に食べられるので、「忘れられた子2」にならないで済んではいるけれど、いろどりもいろどりでいつも不安だった。
今日の食卓に全員がそろった。
すでに役目を終えたトップバッター。
ふふんとほかを見下す圧倒的センター。
今日は忘れられなかった、忘れられた子。
忘れられた子に寄り添ういろどり。
朝食いが冷蔵庫に行く。まだあるようだ。
「行ってらっしゃい!」
「元気でね!」
食材たちのあたたかい声援が聞こえ、圧倒的センターが眉をひそめる。
出てきたのは、クリームチーズ、通称「モテモテ」だった。
圧倒的センターは、最近、ジャムやバター、マーガリンを塗ってもらっていない。
なぜなら朝食いがダイエットをしているからだ。
それなのにデザートとしてときどき出てくるのがモテモテだ。
「ねえ朝食いさん、矛盾していません?」と圧倒的センターは抗議したいのだが、選ぶのは朝食いなので仕方がない。
モテモテは照れくさそうに、忘れられた子の横に置かれる。
モテモテの隣になった忘れられた子は真っ赤になったが、すぐに朝食いに拾い上げられた。
朝食いの一日の始まりは、僕たちの一日の仕事。
「いただきます」
威勢のいい声で、朝食いが食べものや飲みものたちを見つめる。